天文十二年(1543)―永禄十二年(1569)。 武田信玄と三条夫人の長女。

  黄梅院は1543年、信玄と三条夫人の長女として生まれた。 初めての女児とあって、信玄も長女が生まれた時、特に可愛く思ったのではないだろうか?
黄梅院は甲・駿・相の三国同盟のため、天文二十二年の冬に、天文二十三年に北条氏康の長男北条新九郎(北条氏政)と結婚させる事とし、その約束として初めに氏康の方から正月十七日、誓句が届けられ、信玄からも二月二十一日に誓句を送り、婚約が成立した。

 この前に、黄梅院の兄義信が今川義元の娘でいとこに当たる嶺松院と結婚していた。天文十九年に最初に駿河に嫁いでいた信玄の姉定恵院が死去したため、再び甲駿同盟を強化するためである。 また、黄梅院より一足早く、天文二十三年の七月に、義元の長男今川氏真の許に、北条氏康の娘早川殿が嫁いでいる。
 しかし、嫁ぐ時が来てもまだ黄梅院は十二歳の幼さであった。 母親の三条夫人からすれば、まだまだとても結婚適齢期とは思い難く、喜びよりも不安や悲しみの方が勝っていたのではないだろうか?
  しかし、容赦なく娘との別れはやって来る。 天文二十三年の十二月、黄梅院は相模に嫁いでいった。 

その様子は、三千騎が付き従い、金覆輪の鞍を付けた馬に十二丁の輿、四十二の長持、実に総勢一万人の輿入れ行列であった。 当時の輿入れ行列は、他国へ自国の国力を誇示するデモンストレーションの意味を含んでいた。
 しかし、その他にもやはり父信玄の黄梅院への愛情も感じられる。 黄梅院は早くも弘治元年(1555)には懐妊し、十一月八日、男児を出産した。 この報を聞いた信玄は大喜びであったという。 しかし、まだ母体が未熟なせいもあったのか、この息子は間もなく夭折してしまった。 信玄も三条夫人も悲しみ落胆し、また娘の事も気がかりであっただろう。
   黄梅院は二年後の弘治二年(1557)に再び懐妊した。信玄は今度こそは娘の無事な出産を願い、この年の十一月十九日、富士御室浅間神社に直筆の願文をしたため、黄梅院の安産を願った。三条夫人も同じ気持ちであっただろう。
 この願文の中で信玄は、 「もし娘が母子共に無事で出産なれば、来年の六月から船津の関所を開放する」と約束している。
 この時の子は後の芳桂院という娘として、無事に誕生したようえである。 その後も黄梅院は長男氏直、次男氏房、三男直重を次々に出産し、夫氏政との夫婦仲はすこぶる良好であった。
 信玄は更に永禄九年の五月の黄梅院懐妊の時にも、「出産は六、七月頃かと思われるので、百人の僧侶を集めて法華経を読誦させ安産の祈願をして欲しい。神馬を寄進する」再び祈願状を書いた。 そして六月十六日にも「母子共に無事ならば、来年から黒駒の関所を開放する」と祈願している。この時に誕生したのが、三男直重であった。
  嫁がせる時には心配したものの、多くの子供達に恵まれ夫と幸福な結婚生活を送っている娘の様子に、母親の三条夫人も安心した事だろう。
 しかし、両親からは愛され夫や子供達と幸せな生活を送っていた黄梅院だが、思わぬ悲劇に見舞われる事となっていく。
  永禄十一年の十二月に、信玄は駿河を侵攻し、駿府城は陥落、今川氏真の正室の早川殿は裸足で逃げ出さなければならない有様であったという。
 この信玄の一方的な同盟破棄を怒った北条氏康は信玄の娘である黄梅院を氏政と離縁させ、甲府に送り返してしまった。 なお、父信玄と駿河侵攻を巡り対立し、謀反を起こした黄梅院の兄義信は。前年の永禄十年の十月十九日に、幽閉先の東光寺で自ら命を断っていた。

 愛する夫や子供達と無理やり引き離された黄梅院は悲しみに暮れて甲府に帰ってきた。 黄梅院は悲しみから安之玄穏を導師として、出家してしまった。
それからわずか半年の後、黄梅院は永禄十二年六月十七日、失意の中、二十七歳でこの世を去ってしまった。

 「法号 黄梅院殿春林宗芳大禅定尼」

 信玄は元亀元年の十二月に、娘のために知行の十六貫二百文を寄進して、巨摩郡竜地に黄梅院を建立した。 本尊は子安地蔵である。幼い子供達と別れなければならなかった黄梅院を配慮してであろう。 また、この黄梅院を建立させた同日に信玄は、妻三条夫人の菩提寺円光院に対しても回向として、十八貫文の茶湯料を寄進し、二人の回向を行なっている。
 また父の北条氏康に無理やり離縁させられたとはいえ、妻の事を深く愛していた北条氏政は天正三年の七月に、箱根の早雲寺の塔頭に黄梅院を建立して黄梅院の事を弔った。

ああ黄梅院

作詩 小野 栄 作曲・編曲 手塚 修
         
昭和??年
 

 唄 原 美智子

1 戦雲暗く 野の果てに
  無情の風よ 肌を差す
  残せし我が子 案じつつ
  涙でたどる 甲州路
  ああ傷心の 黄梅院
  
    
2 乱世の定めか 政略の
  犠牲となるか 幼な妻
  荒ぶ阿修羅の 火に追われ
  想いは相模 身を焦がす
  ああ墨染めの 黄梅院
  

  
3 御霊鎮まる 滝坂の
  昔を偲ぶ 石畳
  集く虫さえ 悲しげに
  哀れと泣くか 花の露
  ああ戦国の 黄梅院